りいちゃんと俺を呼ぶものはない
当時、暴走して迫害者人格を4人月花に送り込んでいた俺。
さすがに存在がバレてお前はいつもそうだと八つ当たったが、
「名前つけたげる~」と軽いノリの月花は「鈴音。鈴の音。聞こえたよ」と笑った。
恐らく、僕はしいちゃんが来ることを期待していて、
「りいちゃん」と呼ばれたくて、りんねという名前で完全に誤解した。
月花と名前を変えたのならと月ちゃんと呼んだ。
兄のいない月花はおにいちゃんの記憶があったので噛み合ってしまった。
正確には月花は僕を見ていたわけではない。
俺の首を絞めて叫ぶしいちゃんと抵抗しないおにいちゃんを上の方から見ていた。
解離して僕を見ているしいちゃんをしいちゃんの立場で見ていた。
いつ、気づいたのか。
生活を送る上での違和感が広がっていったのと
そのことについて俺が考えるという行動をとったこと。
自然と答えは出た。
そして、月花がしいちゃんを他者の名として呼んだとき、
幻想は打ち砕かれた。
月ちゃんに確認すると何がどうなったのか教えてくれた。
売られたしいちゃんは精神病院に措置入院した。
そこまではいたのだという。
眠って目が覚めたら、違和感があったけれど何故か分からなかった。
その話をしながら「生きてると思いたいけどね」と月ちゃんは言った。
僕は内面世界においてはかなり潜り込める。
散々探って、「見つからない」「存在すら、その残滓すら感じない」と
結果的にしいちゃんの消滅説を強めて終わった。
しいちゃんに好意的なのは月花だけだった。
他の人格からすれば月花に厄介事を全て押しつけた女。
そういう認識だった。
ふっと当時いた代理人格を思い出したけれど、
ただの2歳くらいの男の子だった。
「わるいのはしいちゃんのおかあさんだよ」
そう言って嫌われていた。